ディジタル信号処理 z変換

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z変換の定義

連続時間システムでは、通常ラプラス変換を用いてシステムの解析および設計を行います。z変換はラプラス変換の離散時間版です。信号\(x[n]\)に対するz変換は次式で定義されます。

$$X[z] = \sum_{n=-\infty}^{\infty} x[n] z^{-n}\tag{1}$$

因果的信号に対するz変換は次式のように定義されます。

$$X[z] = \sum_{n=0}^{\infty} x[n] z^{-n}\tag{2}$$

これら2つの式(1), (2)を区別するために、(1)を両側z変換, (2)を片側z変換と呼びます。

z変換は、次のような記法で表されることがよくあります。

$$X[z] = Z[x[n]]$$

ここで、\(z\)は複素数です。そのため、信号はzのべき級数となるため、zの値によっては発散する場合があることがわかります。そこで、複素平面上で\(X[z]\)が収束するような領域を示す必要があります。z変換\(X[z]\)が収束するzの範囲を\(X[z]\)の収束領域(ROC: Region Of Covergence)といいます。一般に、収束領域はある非負の\(R_{x-}, R_{x+}\)によって

$$R_{x-} < |z| < R_{x+}$$

のように不等式で表されます。下図のように、収束領域はz平面の原点を中心とする\(R_{x-}, R_{x+}\)の円で囲まれる環状の領域です。ただし、\(R_{x-}=0, R_{x+}=\infty\)になり場合があります。

基本的な信号のz変換

単位インパルス信号

単位インパルス信号が\(\delta[0]=1, \delta[n] = 0 (n\neq 0)\)であることを利用すると、定義式より次式が得られます。

$$X[z] = \sum_{n=-\infty}^{\infty} \delta[n] z^{-n}$$

$$= \delta[0]z^{-0} + \sum_{n=-\infty}^{-1}\delta[n]z^{-n} + \sum_{n=1}^{\infty}\delta[n]z^{-n} $$

$$= 1\cdot z^{-0} + 0 + 0 = 1$$

となります。したがって、\(X[z]\)は\(z\)の値に関わらず、常に1であるため、ROCはz平面全体となります。

単位ステップ信号

単位インパルス信号が\(u[n]=1 (n\leq 0), \delta[n] = 0 (n< 0)\)であることを利用すると、定義式より次式が得られます。

$$X[z] = \sum_{n=-\infty}^{\infty} u[n] z^{-n}$$

$$= \sum_{n=-\infty}^{-1}u[n] z^{-n} + \sum_{n=0}^{\infty}u[n] z^{-n}$$

$$ = 0+ 1 + z^{-1} + z^{-2} + \cdots$$

$$ = \frac{1}{1-z^{-1}}$$

となります。したがって、\(X[z]\)は初項1, 公比\(z^{-1}\)の無限等比級数となるため、\(|z^{-1}| < 1\)のときのみ級数和を上式の通り求めることができます。

したがって、\(|z|>1\)となり、z平面上で単位円の外側の領域となります。ここで、\(u[n]\)は\(n\rightarrow \infty\)でも値が存在する信号ですが、その場合、z平面上では収束領域に単位円を含まないことに注意する。

指数関数

指数関数は\(\alpha^n u[n]\)と表すと、z変換は以下のようになります。

$$X[z] = \sum_{n=-\infty}^{\infty} \alpha^n u[n] z^{-n}$$

$$ = \alpha^0 z^0 + \alpha^1 z^{-1} + \alpha^2 z^{-2} + \cdots$$

$$ = \sum (\alpha z^{-1})^n$$

したがって、\(|\alpha z^{-1}| < 1\)のとき、収束します。

$$|\alpha||z^-1| < 1$$

$$|z| > |\alpha|$$

となり、収束領域は半径\(\alpha\)の円の外(円周を除く)となります。このとき、z変換は初項1, 公比\(\alpha z^{-1}\)の等比級数なので、

$X[z] = \frac{1}{1 – \alpha z^{-1}}$

となります。

複素指数関数

複素指数関数は、\(x[n] = e^{j\omega n}\)と表されます。これは上の指数関数の特別の場合と考えると簡単に解くことができます。\(\alpha = e^{j\omega}\)とすると、

$$X[z] = \frac{1}{1 – e^{j\omega}z^{-1}}$$

となります。ここで、収束領域は\(|z| > |e^{j\omega}|\)となります。

したがって、\(|z| > 1\)となります。

ここで、\(|e^{j\omega}|\)は複素数の絶対値の求め方である、実部の2乗 + 虚部の2乗の平方根を取るということなので、

$$\sqrt{\cos^2 \omega + sin^2\omega} = 1$$

を利用しています。

ランプ信号

ランプ信号は、\(x[n] = n\cdot u[n]\)と表されます。ランプ信号をz変換すると、

$$X[z] = \sum_{n=0}^{\infty}n\cdot u[n]$$

$$ = 1 + 1\cdot z^{-1} + 2\cdot z^{-2} + \cdots $$

ここで、\(R[z] = 1 + 1\cdot z^{-1} + 2\cdot z^{-2} + \cdots\)とおいて、

$$R[z] – z^{-1}R[z] = z^{-1} + 2z^{-2} + \cdots$$

$$ = z^{-1}(1 + z^{-1} + 2z^{-2} + \cdots)$$

ここで、\((1-z^{-1})=1 + z^{-1} + 2z^{-2} + \cdots\)なので、

$$R[z](1-z^{-1}) = \frac{z^{-1}}{1-z^{-1}}$$

$$R[z] = \frac{z^{-1}}{(1-z^{-1})^2}$$

となります。収束領域は、\(|1-z^{-1}|\)より、\(|z| > 1\)となります。

z変換の性質

線形性

定数a, bに対して、次式が成り立つ。

$$Z[ax[n] + by[n] = aX[z] + bY[z]$$

証明

$$Z[ax[n] + by[n] = \sum (a x[n] + by[n])z^{-n}$$

$$= \sum (ax[n]z^{-n} + by[n]z^{-n})$$

$$ = \sum (ax[n]z^{-n}) + \sum (by[n]z^{-n})$$

$$ = a \sum (x[n]z^{-n}) + b\sum (y[n]z^{-n})$$

$$=a X[z] + b Y[z]$$

推移

定数mに対して、次式が成り立つ。

$$Z[x[n-m]] = z^{-m}X[z]$$

証明

$$Z[x[n-m]] = \sum_{n=0}^{\infty} x[n-m] z^{-n}$$

ここで、\(n – m = k\)とおく。(mは整数)

このとき、\(n: 0\rightarrow \infty\)なので、\(k: -m \rightarrow\infty\)となります。

$$Z[x[m-k]] = \sum_{-m}^{\infty} x[k] z^{-(m+k)}$$

$$= \sum_{-m}^{\infty} x[k] z^{-m}\cdot z^{-k}$$

ここで、\(z^{-m}\)はkに関係しないため、

$$= z^{-m} \sum_{-m}^{\infty} x[k] z^{-k}$$

となる。また、\(k < 0\)のとき、\(x[k] = 0\)なので、(因果性)

$$z^{-m} \sum_{0}^{\infty} x[k] z^{-k}$$

となる。これは、zがkになっただけのz変換なので、最終的には

$$Z[x[m-k]] = z^{-m} X[z]$$

となる。

指数倍

次式が成り立つ。

$$Z[\alpha^n x[n]] = X[\alpha^{-1} z]$$

これは指数関数に対するz変換から導出できます。

微分

次式が成り立つ

$$Z[n x[n]] = -z\frac{dX[z]}{dz}$$

畳み込み

\(h[n]\)と\(x[n]\)の畳み込みは

$$y[n] = h[n] * x[n] = \sum{k=-\infty}^{\infty} h[k] x[n-k]$$

で表され、畳み込みのz変換は次式で与えられる。

$$Y[z] = H[z] X[z]$$

初期値定理

因果的信号\(x[n]\)に対して、次式が成り立つ

$$x[0] = \lim_{z \to \infty} X[z]$$

最終値定理

因果的信号\(x[n]\)に対して、次式が成り立つ

$$x[n] = \lim_{z \to 1} (1- z^{-1}) X[z]$$

まとめ

本記事では、z変換の定義について紹介し、基本的な信号に対するz変換を解説しました。また、z変換の性質についても解説しました。

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