ディジタルフィルタにおいて、安定性(stability)と因果性(causality)は重要な概念です。それぞれについて見ていきましょう。前提としてLTIシステムについて考えます。
安定性
有界
全ての時刻\(n\)に対して、\(|x[n]| <\infty\)のとき、信号\(x[n]\)は有界であると言います。
安定性
ディジタルフィルタの安定性は次のように定義されます。フィルタに任意の有界な入力信号(bounded-input)をフィルタに入力した時、その結果出力が有界(bounded-output)であるとき、このディジタルフィルタは安定であると言います。
ディジタルフィルタ\(h[n]\)は、インパルス応答の絶対値の和が次のように有限な値になるときに限って安定であることが知られています。
$$\sum_{k=-\infty}^{\infty} |h[k]|< \infty$$
入力信号\(x[n]\)が有界であるとすると、任意の\(n\)に関して次式が成り立ちます。
$$|x[n]| \leq K_1$$
そして、次の式が得られます。
$$|y[n]| = |\sum_{k=-\infty}^{\infty} h[k] x[n-k]|$$
$$\leq \sum_{k=-\infty}^{\infty} |h[k]| |x[n-k]|$$
$$\leq K_1 \sum_{k=-\infty}^{\infty} |h[k]|$$
ここで、\(|x[n-k]|\leq K_1\)を使用しています。インパルス応答の絶対値の和が有限な値になるとき、
$$\sum_{k=-\infty}^{\infty} |h[k]| = K_2< \infty$$
となり、
$$|y[n]| \leq K_1 K_2 < \infty$$
が得られます。したがって、入力信号が有界で、インパルス応答の絶対値の和が有限な値となるとき、出力値も有界になります。
因果性
定義
現在の出力値は、過去あるいは現在の入力値のみから決定されるような場合、システムは因果的である、あるいは実現可能であるといいます。
因果性とは読んで字のごとく、原因と結果が伴っているシステムのことをいって、システムに入力されてはじめて出力信号が生成されることをいっています。
線形時不変システムである場合、次の条件を満たす場合、システムは因果的であるといいます。
任意の時刻\(n_0\)に対して、\(n\leq n_0 \)において入力信号\(x[n] = 0\)のとき、\(n\leq n_0 \)において出力信号は\(y[n] = 0\)となる。
ディジタルフィルタ\(h[n]\)は、インパルス応答が次の条件を満たすとき因果的になることが知られています。
$$h[n] = 0, n < 0$$
因果性の証明
線形システムの場合、任意の\(n\)に対して\(x[n] = 0\)のとき、\(y[n] = 0\)となります。したがって、システムが因果的である場合、任意の\(n\)に対して、\(n\leq n_0 \)のとき\(x[n] = 0\)となるとき、\(n\leq n_0 \)のとき\(y[n] = 0\)となります。これは必要条件です。入力していないのに、出力されないことを意味しています。
次に十分条件として、すべての\(n\leq n_0 \)において、任意の2つの入力\(x_1[n], x_2[n]\)に対する、それぞれの出力\(y_1[n], y_2[n]\)があるとします。このとき、\(n\leq n_0 \)において\(x_1[n] = x_2[n]\)あるいは\(x_1[n] – x_2[n] = 0\)が成り立つとき、\(n\leq n_0 \)において\(y_1[n] = y_2[n]\)あるいは\(y_1[n] – y_2[n] = 0\)が成り立ちます。
インパルス応答の条件について証明
インパルス応答の式から次式が得られます。
$$y[n] = \sum_{k=-\infty}^{\infty} h[k] x[n-k]$$
$$ =\sum_{k=-\infty}^{-1} h[k] x[n-k] + \sum_{k=0}^{\infty} h[k] x[n-k]$$
上の式の第一項目の総和は、現在の時刻\(n\)より未来の信号の総和を表しています。ここで、フィルタが因果的である場合、
$$\sum_{k=-\infty}^{-1} h[k] x[n-k] = 0$$
上の式は次の場合に成り立ちます。
$$h[n] = 0, n < 0$$
このことから、
$$y[n] = \sum_{k=0}^{\infty} h[k] x[n-k]$$
となり、現在の出力値は現在の入力値あるいは過去の入力値のみから決定されることがわかります。
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