伝達関数
LTIシステムの関係は次式で表されることを以前定義した。
$$y[n] = \sum_{k=-\inf}^{\inf} h[k] x[n-k]$$
ここで、\(X[z]=Z[x[n]], Y[z]=Z[Y[n]]\)とおくと、上式の両辺を定義通りz変換すると、次式が得られる。
$$Y[z] = \sum_{n=-\inf}^{\inf}\{\sum_{k=-\inf}^{\inf}h[k]x[n-k]\}z^{-n}$$
ここで、\(m=n-k\)とすると、
$$Y[z] = \sum_{m=-\inf}^{\inf}\{\sum_{k=-\inf}^{\inf}h[k]x[m]\}z^{-(m+k)}$$
$$=\sum_{k=-\inf}^{\inf}h[k]z^{-k} \sum_{m=-\inf}^{\inf}h[m]z^{-m}$$
$$=H[z] X[z]$$
となるここで、\(H[z] = Z[h[n]]\)である。このように、時間領域の畳み込み演算は、z領域では乗算となる。上式を変形すると、
$$H[z] = \frac{Y[z]}{X[z]}$$
が得られる。これは、入力と出力の比を表しており、入力から出力への伝達量に相当し、伝達関数という。
伝達関数の一般系
N次差分方程式は次のように表されことを以前解説しました。
$$y[n] = – \sum_{k=1}^{N} a_k y[n-k] + \sum_{k=0}^{N} b_k x[n]$$
これについて、z変換をすると次式が得られました。
$$H[z] = \frac{Y[z]}{X[z]} = \frac{\sum_{k=0}^{N} b_k z^{-k}}{1 + \sum_{k=1}^{N} a_k z^{-k} }$$
これをもう少し一般化して、分子分母の次数が異なることを考えて、
$$H[z] = \frac{Y[z]}{X[z]} = \frac{\sum_{k=0}^{N} b_k z^{-k}}{1 + \sum_{k=1}^{M} a_k z^{-k} }$$
と表します。
この式は、線形時不変離散時間システムの伝達関数の一般系を表しています。
極と零点
上記の線形時不変離散時間システムの伝達関数の一般系は分子、分母ともにzの多項式で表されていることがわかります。したがって、次のように書くことにします。
$$H(z) = \frac{C(z)}{D(z)}$$
ここで、\(C(z)\)は分子多項式、\(D(z)\)は分母多項式であり、次のように表されます。
$$C(z) = \sum_{k=0}^{N} b_k z^{-k} = b_0 + b_1 z^{-1}+\cdots + b_Nz^{-N}$$
$$D(z) = 1 + \sum_{k=1}^{M} a_k z^{-k} = 1 + a_1 z^{-1} + a_2 z^{-2}+\cdots + b_Mz^{-M}$$
ここで、\(C(z)\)を因数分解することを考えます。代数学の基本定理より、n次方程式は、複素数の範囲で、常にn個の解をもつことが知られています(重解を含む)。つまり、多項式の次数と解の個数は一致します。
このことから、\(C(z)\)を因数分解して、次式のように表すとします。
$$C(z) = (1 – c_1 z^{-1})(1 – c_2 z^{-1}) \cdots (1 – c_N z^{-1})$$
ここで、\(c_k, (k=1, 2, \cdots, N)\)は\(C(z) = 0\)の解です。
\(z = c_k\)のとき、\(C(z) = 0\)となり、\(H(z) = 0\)となります。したがって、システムはどんな入力をしたとしても出力がゼロになり、何も伝達しない状態になります。そのため、\(c_k\)を零点(zero)と呼びます。
次に、\(D(z)\)も同様に因数分解すると、
$$D(z) = (1 – d_1 z^{-1})(1 – d_2 z^{-1}) \cdots (1 – d_M z^{-1})$$
となります。ここで、\(d_k, (k=1, 2, \cdots, M)\)は\(D(z) = 0\)の解です。
\(z = d_k\)のとき、\(D(z) = 0\)となり、\(H(z) = \infty\)となります。この\(d_k\)を極(pole)と言います。
極と零点が同じになる場合があり、この時は極と零点は相殺されます。これを極零相殺と言います。これは同じ値の極と零点に関する分母と分子の多項式で伝達関数を通分することに対応します。
まとめ
伝達関数の一般系は
$$H[z] = \frac{Y[z]}{X[z]} = \frac{\sum_{k=0}^{N} b_k z^{-k}}{1 + \sum_{k=1}^{M} a_k z^{-k} }$$
で表すことができました。
$$H(z) = \frac{C(z)}{D(z)}$$
と表し、\(C(z) = 0\)となる値を零点、\(D(z) = 0\)となる値を極と呼びます。
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